2006年05月16日

ニューオリンズという市(まち)

なんといっても、パリはニューオリンズの生みの親だったからね。パリは、いわばニューオリンズに生命をふきこんだんだ。最初に、ニューオリンズに移住したのはパリジャンだった。そんなわけで、ニューオリンズという市は、いつもパリに近づこうと、必死になっているようなところがあるんだ。ニューオリンズというすてきな市は、どうしようもないほど活気に溢れているものの、これまたどうしようもないほど移ろいやすい市だったね。そこには何かしら、どう努めてみても荒けずりな、素朴なところがあった、エキゾチックで洗練された生活を内側からも外側からもおびやかす何かがね。木造の建物が立ちならぶ街並みの一インチ、スペイン風の家屋が集まっているごみごみした界隈の煉瓦の一枚といえども、ニューオリンズを取りかこむ荒々しいアメリカの風土からもってきたものはないといってよい。ハリケーン、洪水、熱病、疫病—そしてルイジアナの風土特有の湿気が、あらゆる木造の建物や石の表面をたゆみなく侵した。ニューオリンズという市は、自然に対抗する人間の空想の産物といった要素をもっていた。粘り強さ、無意識のうちにではあるが、凝りかたまった意志をもってずっと抱きつづけた夢のようなもの、それが、ニューオリンズなんだ。

— アン・ライス 『夜明けのヴァンパイア』 (田村隆一訳)より
posted by schazzie at 16:54| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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