2005年02月25日

眠りの効用

人は眠らずには生きてはいけません。睡眠について研究が進むにつれて、眠りが「食事」というもうひとつの本能と密接な関係があることや、体や脳を休めるだけでなく記憶や学習の効率を上げるのにも役立っていることなどがわかってきました。そうなると、暁を覚えない春の眠りも、けっして「惰眠」などではないのかもしれません─(大岩ゆり)


不足すれば肥満の危険

仕事が忙しくて睡眠が短くなると、お菓子やラーメンに手が伸び、太ってしまう─単に意志が弱いからだけではなく、体の要求に従った自然の理であるとする研究が昨秋、米国で続々と発表された。

ラスベガスで開かれた北米肥満学会では、コロンビア大のチームが32〜59歳の1万8千人を対象にした健康栄養調査の結果を発表。一晩に4時間以下しか眠らない人は、7〜9時間の人に比べ肥満になる危険性が73%も高いとわかった。

「犯人」は、食欲を調節するホルモンだった。

ウィスコンシン大やスタンフォード大が、ウィスコンシン州の約千人を対象に10年以上続けている調査によると、平均睡眠が約5時間の人は空腹感を増す「グレリン」というホルモンの分泌量が8時間の人より約15%多かった。食欲を抑える「レプチン」の分泌量は約15%少なかった。

「空腹のまま眠り続ければ餓死するから、野生動物は自然に目が覚める。血中の糖濃度と摂食ホルモン、睡眠や覚醒をつかさどる生理活性物質が互いに制御しあっていることがわかります。おなかがすいていると寝付けなかったり、睡眠時間が短いと太りやすかったりするのもそのためです」と筑波大基礎医学系の桜井武・助教授は説明する。

睡眠と摂食を結びつける鍵が、桜井さんが、柳沢正史テキサス大教授らと見つけた「オレキシン」という生理活性ペプチドらしい。オレキシン神経系のスイッチが「オン」になると、信号が覚醒関連領域といわれる部分に伝わって、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が分泌されて、人は覚醒状態になる。「オフ」になれば、睡眠状態に入る。

「オレキシンをつくる神経の働きが、レプチンなどの摂食ホルモンの濃度に左右されることがわかってきました」と桜井さん。眠りと食は表裏一体だった。


技術の習得も早める

睡眠と、脳や体の他の働きとの関係についても、手がかりが見つかり始めた。

脳内の神経伝達物質などについて調べている本多和樹・東京医科歯科大助教授は、眠くなったときに脳内で増える物質の中に、毒性の強い活性酸素などのフリーラジカルを除去する働きを持つ物質があることを発見した。

「最も酸素消費量の多い脳では、フリーラジカルもできやすい。睡眠中にそれを除去、脳細胞の傷を修復しているのかもしれない」

ネズミを無理やり起こしておくと、皮膚がただれ、免疫機能も低下して数週間で死んでしまう。

「睡眠不足で肌が荒れるのは、睡眠中に出る成長ホルモンが不足するから。免疫機能が低下するのは、免疫を担うサイトカンが睡眠制御にも関係しているから。寝ることが大きな機能を担っているのです」と本多さんは強調する。

もちろん、視覚や聴覚、運動に関する記憶や学習の強化にも重要だ。

国立精神・神経センター精神保健研究所の栗山健一研究員は米ハーバード大に留学中、学生ボランティア約60人に、数字を書いた鍵盤を指で打たせる実験に取り組んだ。両手の指8本を使って8種の数字を打つ、複雑な課題に取り組んだグループは、睡眠により習熟度が30%近く高まった。だが、片手の4本で4種の数字を打つグループは習熟度の上昇は約18%だった。

「複雑な課題ほど睡眠の効果は高い。睡眠中に神経間の接続が拡大したりスムーズになったりするのだろう」と栗山さんは考える。

鳥類や哺乳類は、脳波の動きが違う2種類の睡眠を持つ。脳波が覚醒時のように活発に動く「レム睡眠」と、ゆっくり動く「ノンレム睡眠」だ。昆虫や両生類にはこの区別がない。哺乳類でも、人のように数時間も連続して眠る動物は珍しく、ネズミは1回約20分だ。

ハエの睡眠の研究をしている粂和彦・熊本大助教授はいう。「進化の過程で大脳皮質が発達するにつれ、体を休めてエネルギーを節約することだけが、睡眠の役割ではなくなってきた。人では、起きている時とは違う働きを大脳が受け持つようになり、そのために連続睡眠が延びたのではないでしょうか」

─(以上、朝日新聞より)

posted by schazzie at 01:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ダイエット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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