2004年07月04日

ディケンズ『大いなる遺産』より

■わたしはわたしの数多い訳書のうち、いちばん懐かしい、いちばん好きな作品として、この『大いなる遺産』を若い方たちに贈ります。だれはばからず、思いきり哀れみ、愛し、憎み、激しく蔑み、ほんとに怒り、笑い、思いきり泣いてください。そして、ただ笑いと涙に流されてしまうだけでなく、作者がこの作品の中に魂こめて描きこんだ作者のメッセージを読みとるひとも何人かあってほしい。それは、すべてのひとは、幸福であり、豊かである権利がある、ということでう。それをふみにじるものをば本気で怒り、抗議し、糾弾することです。ディケンズのように!

─山西英一(『大いなる遺産』訳者・解説)


■「ほんとの愛とはどんなものか、おまえにいってあげよう」と、彼女はおなじ早口の熱情的なささやき声でいった。「それは盲目的な献身です。うたがうことを知らない自己卑下です。絶対的な従順です。信頼と信仰です。おまえ自身にそむき、全世界にそむいて、おまえの全身、全霊を、おまえを打つ者にゆだねてしまうことです──ちょうど、わたしがそうしたように!」

─(ミス・ハヴィシャム/チャールズ・ディケンズ『大いなる遺産』)


■いまもしディケンズが生きていたら、どうだろうか?
人間はだれでも幸福になる権利を持っている。国民ひとりひとりの幸福を使命とする崇高な政治を、ないがしろにしているいまの政治家たちは、ディケンズの仮借ない、すさまじいペンの力によって、その虚ろな頭と欺瞞、醜悪なはらわたをさらけ出され、ダンテの地獄の底へとたたき落とされていることだろう。

─山西英一(『大いなる遺産』訳者・解説)


■イギリス資本主義の国内における勝利を最終的に決定したのは、1832年の選挙法改正案の議会通過であった。これはじつは新しい歴史を決定した、非常に劇的な、大変な出来事だったのである。

1832年はまた、霧深いスコットランドの鬼才、ウォルター・スコットの死んだ年でもある。フランス大革命は、狭い海峡ひとつ隔てて、ちょうど産業革命の真最中だったイギリスにも、すさまじい衝撃をあたえ、その激しい熱気にあおられて、バイロン、シェリー、ワーズワースなどを中心にした詩的ロマンチシズムの未曾有の高揚があった。スコットはこのラディカルな詩的ロマンチシズムからディケンズの純ブルジョワ的、市民的リアリズムにいたる中間の大きな一環をなしている。

時がたち、彼は詩から小説に転じ、31編にのぼる長編のウェイヴァリー・ノーヴェルによって歴史的リアリズムとでもいうべき、すばらしい歴史文学を創造した。どれも非常におもしろいものだが、そのひとつ『アイヴァンホー』をのぞいては、惜しいことに日本では一般にはほとんど紹介されていない。

─山西英一(『大いなる遺産』訳者・解説)


Great Expectations―「大遺産相続の見込み」(1860-61)

ブルジョア文学に一新紀元を画した『ピクウィック・ペーパーズ』(1836-37)、ディケンズの前期と後期を画するモニュメントともいうべき自叙伝的小説『デイヴィッド・コパフィールド』(1849-50)とならんで、円熟洗練された後期作品の代表として、数多い彼の長編小説のなかでも、三大傑作のひとつとして数えられているもの。

─山西英一(『大いなる遺産』訳者・解説)
posted by schazzie at 00:00| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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